HOME  ミッションステートメント 笑いの宅急便 伊藤雄二郎のさわやか系心理学 活動報告&プロフィール  シルクロード夜話
リンク 近未来井戸端フォーラム
 

 



伊藤雄二郎のさわやか系心理学


22時空転換術
熱いコーチたち

「時空転換術」というのは、先日のプロ・コーチのための実践心理学講座のテーマである。実は「時空転換術」という言葉は、私ではなくこの講座に参加した受講生の一人1)が仲間うちで作ったメーリングリストで使ったのが最初である。この講座の受講生たちとはいつもおバカなギャグばかりを言い合って遊んでいるが、彼らの学ぶことへの意識の高さにはしばしば私の方が驚かされる。

彼らはそれぞれスポーツ、ビジネス、教育といったジャンルでコーチングを行っており、それぞれの現場で常にそれなりの成果を出すことを求められているのだから真剣になるのもあたりまえだが、研究熱心で理解力、吸収力も素晴らしい。この講座においては、私も彼らの熱に押されるようにして、普段あまり話さないトピックも話すようになってきている。

周囲からはそれほど釈迦力(シャカリキと言いたかったのだがパソコンの誤変換が素晴らしかったのでそのまま残してみました)にやっているようには見えないと思うが、このグループが相手の時はこちらも自分の持っているものを全て出す気で臨んでいる。

プロ・コーチ、指導者のための実践心理学マニュアル

最初にコーチングのための心理学の講座の依頼があったとき、私はもう少し表面的なものをイメージしていたが、(とりあえず数字で結果が出ればよい・・・的な)コーアクティブ・コーチングを学んだこのグループのコーチたちについては、相当深いところまで突っ込んでもしっかりついてくるので、当初6回で終了の予定が中級6回が加わりさらに現在は上級を開講中である。彼らのおかげで私のコーチングに対する認識も大きく変化したのである。
今、今回のこの講座のコンテンツを何らかの形でフォーマット化しようと試みているが、それが実現すると世界に通用するプロ・コーチのための実践心理学マニュアルが出来上がることになる(予定)。

タイム・スペース・インテグレーション

上級でのメインのトピックのひとつが時空転換術である。私自身はこの手法をT・S・I(タイム・スペース・インテグレーション)と呼んでいる。これはひとことでいうと、「時間的思考モードと空間的思考モードを組み合わせることで、未知の視点や感覚を掘り起こし自分の望む成果を手に入れる方法」(なが〜)である。

時間の質を変える
この手法を用いることで何が得られるかというとまず「時間の質が変わる」ことである。
時間の質を変えるための基本原理については、今まで公の場で説明したことはないが実践したことは何度もある。以前ある小学校で先生と父兄相手に講演会を行った際、この手法を用いて、参加者がこれまでとは異なった視点で、自分や自分の周囲の現実を知覚できるようにガイドしたことがある。そこで得た気づきを作文に落とし込んでもらうというワークショップ形式の講演会だったが、参加者の人たちは自分が予測もしていなかったアイディアが紡ぎだされてくるのに驚いたようである。

この時、私はなぜこの手法を用いるとそれまでの自分では考えられない新しい発想やアイディアが生まれるかの原理までを解説することはなかった。というよりガイディングの手法そのものもほとんど日常会話と変わらないものであるため、受講者はガイディングを受けているという自覚さえもなかったに違いない。言われた通りにシートに文章を書いていったら、アウトプットされてくる文章が、それまでの自分にはない新しい視点に立った新しいアイディアに溢れたものであったというのが受講者の実感であった。
なぜ、そうしたことが可能になるかというと、この日、私は参加者の主観的な時間の質が変化するような、ガイディングを行ったからである。

この手法の原理は、人間が物を考えたり悩んだりということをする際に展開している知覚のプロセスを認知心理学的に解析することでも、おそらくデザインできると思うが、私の場合はこの原理を現場での経験の中から見つけ出した。

成果の出る人、出ない人

一定期間、決まったメンバー相手にイメージングの手法を指導していた際のことである。どんな手法でもそうだが、イメージングに関しても、どんどん成果を出す人とそうでない人とが分かれるものである。どこが違うのだろう?個人の素養と言ってしまえばそれまでだが、成果を出す人には何らかの共通の素養があるに違いない。そう思って成果の出る人とそうでない人とのイメージの描き方の違いを解析していくうちにある共通の原理に気づくことがあった。

それは成果を出す人の描くイメージは、

1、五感を伴い 2、空間的、立体的に 3、美しく描かれている、ということであった。

空間的、立体的なイメージというのは、経験のない人には分かりにくいかもしれないが、これは映画が目の前で展開するように、映像から距離を置いてイメージを描くのではなく、イメージを立体的に描き、自分がその中に入ったようにして描かれるイメージということである。

あるときタイガー・ウッズが、自分がイメージトレーニングをする場合、理想のショットをしている姿を描くのではなく、自分自身がボールになって飛んでいき、飛んでいるときの感じや、芝生に落ちた時の感触を感じていると話しているのを聞いて「さすが」と思ったが、立体的、空間的に描かれる五感を伴ったイメージとは例えばそういうイメージである。

なぜ、映画的映像よりも、空間的映像が有効かと言うと、立体的、空間的イメージの中に入り込むと、それまで流れていた主観的な時間の流れが停止するからである。

実は創造的なアイディアを思いつくためのポイントのひとつがこの、「古い時間の流れを止める」ということなのである。つまり、どんどん新しいアイディアを思いつき、成果を出す人というのは、この「古い時間の流れを止め」「新しい時間を作動させる」ということを何らかの仕方で実践しているのである。

プロ・コーチのための時間を止めるノウハウ

この日私がグループのメンバーに伝えたのは、時間感覚を変えるための手法だったが、より正確には「古い時間の流れを止める」ためのノウハウだった。
この日私は初めて、この手法を使うことで、なぜそれまでの自分では思いもつかなかった気づきやアイディアが浮かぶのかという原理を説明した。

その説明のために彼らにはうまくいったコーチングとそうでないコーチングとを思い浮かべてもらった。コーチングがうまくいったとき、それまでとは違う新しい時間が流れていることを彼らも何度か体験したことがあるに違いないからだ。それを「新しい時間の流れ」とは認識していなかったにしても、言われて見ればなるほどその通りと感じたようである。

読者の大半はプロ・コーチではないと思うので、もう少し卑近な例で説明していよう。例えば「悩んで」いるとき、我々は「古い時間の流れ」の中にいる。
「考えている」とき、我々は「現在から未来へと向かう時間の流れ」の中にいる。
つまり人が悩みを解消し、具体的な結果へとつながる「考える」という行為の中に移行するためには、「古い時間の流れ」を止め「新しい時間の流れ」を作動させることが必要だということである。

これを誰もができるようになるために有効なのが、古い時間の流れを止めるために「スペース」を用いる方法である。そのため私は当初この手法を「スペース発想術」と呼んでいた。だが「スペース」と言ってしまうとどうしても「空間」ばかりがイメージされてしまう。英語の「スペース」という単語も日本語の「間」同様、時間的ニュアンスと空間的ニュアンスの双方を含むがやはり空間的イメージの方が強調されてしまいがちである。

そこでタイム・スペース・インテグレーション(時空統合)というネーミングを考えた。アインシュタイン以降・・・というか有史以来そもそも時間と空間は一体のものでありそれをさらに統合とはいかなることか・・・などという突っ込みはこの際、無しということで話を先に進めたい。

この手法を用いるうえでポイントとなるのは、「何かを空間的、立体的にイメージしている間は主観的な時間の流れの感覚は停止する」ということである。

私の周りには建築畑の友人がいるが、彼らが頭の中で立体的に設計図を思い描いている間は、どうも彼らの中の主観的な時間の流れは停止しているようである。そういう時の彼らは創造的に考えているのであり、この時間が止まっている間に得た、空間的、立体的な着想を2次元の図面に落とし込み、さらにそれを日常的な言葉で語り始めるとき、彼らは既に新しい時間の流れの中にいる。心理的な意味においても現実的な意味においても、建築とは新しい現実、新しい時間と空間を生み出す技術なのである。

私の同居人は青山で「アナスタシア」という帽子のお店を営んでいるが、彼女もそう意識することなく同様のことを行っている。

何のことはない。この日私が示した手法は、空間をデザインしたり立体的な何かを創造する仕事に従事している人ならば、日々自然に行っていることをフォーマット化したに過ぎないのである。それでも、この手法は何かを創造的に考えるためのクリエイティブ・シンキングの実践の技法として有効なものであることに変わりはない。

実際のところ時間的発想と空間的発想という視点から様々な文化現象や思想潮流を検証してみると案外すっきりと整理されるのである。

心理学においては、時間軸を主体に考える因果論を補うように「布置」という空間的な発想が重視されるようになった。

現代思想の領域では時間的、歴史的な軸をベースに展開される弁証法の限界を乗り越えようと空間的な視座を導入した構造主義が現れた。

老荘思想が時間的流れ、プロセスから真理を物語ろうとするなら、仏経は空間的視点から真理を語る試みとして解釈することもできる。

いずれにせよ人間には時間的思考と空間的思考という二種類の思考モードがあることは間違いない。この二つの組み合わせ方を工夫することで、我々が更なる可能性を手にできることは間違いない。

以上のことを簡単に要約すると、タイム・スペース・インテグレーションとは、
空間的立体的に考えることで、古い時間の流れを止め、新しい時間の流れを作動させるための手法であると定義できる。こう述べても具体例がないと何のことかさっぱり分からないと思うので、いずれこれは「プロ・コーチのための実践心理学マニュアル」の中で詳しく論じてみるつもりである。

それよりも何よりも重要なのはイメージを描くポイントの3の
「美しいイメージを描く」というところである。
私は学生時代宇宙物理学者の佐治晴夫さんから「
学問を究めるうえで最も大切なのは美的感受性である」ということを教えられた。同じことを数学者の藤原正彦さんが、『国家の品格』という本の中で語られていた。私がサイコシンセシスを学ぼうと思ったのは、そこに「美」が感じられたからである。人々の美的感性を無視した論理だけの心理学には、私は魅力を感じないのである。
時間感覚の変化と「美」の関連については、また稿を改めて論じてみたい。

                                     (2006,3,26)                                      


1) この受講生とは、田村洋一さん。我々は「ダンナ」と呼んでいる。

『なぜあの人だと話がまとまるのか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4756907164/250-7913994-1441041
という著書がある。この講座の後、ダンナこと、田村さんが、昔スーパージェッターというアニメがあり、そこでヒーローの少年が、30秒だけ時間を止める「タイムストッパー」という技を持っていたという話をしてくれたのがなかなか面白かった。田村氏の本業は、マネジメント・コンサルタントだが、同時通訳をやったり合気道やったりとやたら多彩な人物である。
今回の講座を通しそれらがすべて「時間感覚の練磨」という一語に収斂されることを体感したという。
すべてはスーパージェッターのタイムストッパーへの憧れから始まったそうな。

「宇宙」という言葉の「宇」は空間をそして「宙」は時間を表す。「時間」と「空間」はあらゆるジャンルに共通する奥深いテーマである。時間的思考と空間的思考の組み合わせという視点は、思いもよらずスケールの大きな世界へと我々を誘ってくれるのである。




伊藤雄二郎 さわやか系心理学 目次