HOME ミッションステートメント 笑いの宅急便 伊藤雄二郎のさわやか系心理学 活動報告&プロフィール シルクロード夜話
リンク 近未来井戸端フォーラム
伊藤雄二郎のさわやか系心理学
23、魔法の言葉の作り方
生きることと息をすること
生きること。その根源は「息」すなわち呼吸にある。
息が整うことで人はイキイキし、いきおいがでてくる。
息にまつわる言葉は数多く存在する。
生きる。粋。意気に感じる。呼吸の問題について取り組み始めるとすぐにわれわれはヨーガや気功などの特殊な呼吸法を思い浮かべてしまうが呼吸というものは、本来もっと日常的で我々の生活に密接に結びついた本源的なものである。呼吸について理解したければ、私たちは特殊な訓練としての呼吸法以前に、日々の生活に寄り添うように生起する呼吸という摩訶不思議な現象を捉えなおしてみる必要がある。そのことを通し我々は思いもよらぬ大きな可能性の扉の前に立たされている自分に気づくはずである。
呼吸と言葉
私たちが日常的に駆使している言葉は、呼吸と密接に結びついている。
呼吸と言葉の関係について理解する一番簡単な方法は、呼吸を意識しながら文章を書いてみることである。文章の流れにフィットした言葉が選択されている間は、呼吸の通りが滞ることがない。不適切な言葉が選ばれた場合は呼吸が通らなくなり文章にも流れがなくなってくる。私たちの呼吸は文章の流れにぴったりの言葉が選択されたとき、スーッと通るものである。特にそれまでうまく言語化できなかったもやもやした思いが言葉にできると、それまでのもやもやが解消しすっきりした感覚が得られるものである。そうして息が通ると、私たちの生命はふたたび「いきおい」を取り戻すことができる。
充実した生を生きるためのポイントは、自分本来の呼吸を取り戻すことにある。そのことは自分自身の言葉、自分なりの言語表現を手に入れることと密接に結びついている。
自分の呼吸に合った言葉との出会いは人生を何倍も豊かにしてくれるものである。読んでいて気持ちのいい自分の呼吸に合った文章に触れると、読み手である我々の呼吸のリズムと書き手の息づかいの間に呼吸の交流が起きる。読者の呼吸は、書き手の文章のリズム、息づかいによって活性化させられイキイキと躍動し始めるのである。私たちは書き言葉を通しても互いの息づかいを通わせることができるのである。
言葉による癒し
呼吸の微細な変化と言葉との関係を治療に役立てている治療家がいる。下北沢でルーエという治療院を営む本宮輝薫氏である。氏の著わした『真気の入れ方と邪気の抜き方』という本には、与えられる言葉によって呼吸が微妙に変化するメカニズムとその治療への応用について述べられている。本宮氏は、言葉と呼吸の関係という単純な原理を基に驚くほど精緻な技術体系を構築している。彼が治療のための診断に用いる原理は呼吸だけではなくより専門的な技術も含まれてくるもので、この方法を完全に使いこなせる人はまだ数人しかいないそうである。だが彼らが活用している方法論のベーシックな部分は我々が日常的に使いこなせる範囲のものである。
私自身この方法を自分の仕事に応用させていただいている。この方法論はコーチやカウンセラーや教師など指導的立場にある人がマスターすることで、これまでにない新しいコミュニケーションを可能にする起爆力を秘めている。指導的立場にある人のみならず誰もが生きている限り言葉によるコミュニケーションを必要とする。誰もが言葉を何気なく用いているが、もともと言葉によるコミュニケーションというものは、我々が想像している以上に難しいものである。
ミス・コミュニケーション
例えば恋愛の最中にあるとき、私たちは相手に何とか自分の思いを伝えようとして、苦心して言葉をひねりだすものだが、往々にして自分が意図したものとは異なる内容が受け取られてしまう。そもそも言葉というものは、多くの場合言葉を発する側が望んでいたものとは異なる感情を相手に呼び起こしてしまうものなのである。私たちがコミュニケーションにおいて遭遇する最初の壁である。
教育の現場やカウンセリングやコーチングの現場などにおいてすら相手の意識に変化をもたらすようなキーセンテンスを作る方法は未だノウハウ化されておらず、コーチやカウンセラーの経験に頼ることでなんとかしのいでいるのが現状である。だが、誰しも日常的経験から理解している呼吸と言葉の関係に着目すれば、この方法をノウハウ化することも可能なのである。言葉にまつわるある基本原則が十分に理解されれば、我々は自分が意図した通りに有効に働くキーセンテンス、魔法の言葉を作り出すことが可能なのである。そのためにはまずある基本原則が理解される必要がある。
誰しもが日々の暮らしの中で目の前の相手に何らかの意図を持って言葉を投げかける。気分が変わってほしいのか、行動が変わってほしいのか、交渉事に同意してほしいのか・・・。いずれにせよ、特定の結果を求めて様々な言葉が発せられる。
だが、我々の投げかける言葉は往々にして自らの意図とは異なる結果をもたらす。なぜだろう?
その理由のひとつは相手のニーズとそのニーズにふさわしい言葉との関係が十分に図式化されて理解されていないためといえる。もし相手のニーズを見つけ出し、そのニーズを満たす言葉を確実に見つける方法論が生み出されたら、これは画期的なことである。その方法論がこれからお話する呼吸に基づいた言葉の選び方なのである。
この方法論はニーズとニーズにフィットする言葉の関係を明確に整理したうえで、ニーズを満たすキーセンテンスを見つけるテクニックだが、この方法論を駆使するためには、我々は自らの呼吸の微細な変化に対する感覚を研ぎ澄ます必要がある。その基本原理は、呼吸の感覚に基づいて相手のニーズにフィットするキーセンテンスを作ることにある。
この方法の基本は微細な呼吸の変化に対して感覚が開かれた指導員についてトレーニングを積めば誰にでもマスターできるものである。
魔法の言葉の作り方
相手のニーズにフィットする言葉を見つけるためには、まずニーズを明確にする必要がある。実際には人間は潜在的に意識化が困難な多様なニーズを携えているが、そこにアプローチするのは高等技術に属するものなので、まずは既に意識化されたニーズにフィットするキーセンテンスの作り方からお話したい。
最初のステップは、ニーズを明確にすることである。「部下の意欲を引き出したい」「悲しみを癒したい」「集中力を高めたい」などニーズは単純な一文で示されるのが望ましい。ニーズが確定したらそのニーズを必要としている人を主語として最後に「〜必要がある」と付け加えたフレーズを作る。
「部下の意欲を引き出したい」というニーズがある場合、「○○君が意欲的に仕事に取り組むようになる必要がある」というセンテンスを作るわけである。最後に「必要がある」と付け加えることが、この方法論の重要なポイントである。従来の言葉かけは、このニーズにあたる部分を「もっと意欲的に仕事に取り組むように」という形でお説教や訓示として提示していたわけである。これはニーズをそのまま口にしているだけでありこのような言葉には魔法は宿らない。
私たちは訓示を考えているのではない。ニーズにフィットする言葉を見つけようとしているのである。ニーズの最後に付け加える「必要がある」というフレーズはそのニーズにフィットするキーセンテンスを探し出すためのフックなのである。
鍵と鍵穴
特定のニーズにフィットするキーセンテンスを創るうえで要となるのが「鍵と鍵穴」という考え方である。特定の目的をもって発せられる言葉が往々にしてうまく働かないのは、この鍵と鍵穴という考えが十分に理解されていないためである。この原則が理解されれば、それこそ言葉は魔法のような力を発揮するのである。
今の例では、「○○君が意欲的に仕事に取り組むようになる必要がある」という言葉は鍵穴にあたる。そしてこの鍵穴にぴったりフィットする言葉を見つけるのがこの方法論の最も重要なポイントである。鍵となる言葉を捜すにあたり鍵穴にあたるセンテンスはカードに書いて手に持つか、そのセンテンスをより意識しやすいように胸か腹にあてる。次にその鍵穴にフィットする鍵となる言葉を捜す段階に入るわけだが、あらかじめ30ばかりのキーワードを表にしておくと作業がやりやすい。
キーワードとなる言葉は「熱意」「意欲」「積極性」「エネルギー」など意欲という言葉から連想される言葉。次に「青い」「赤い」「白い」など色彩にまつわる言葉。さらに「太陽」「月」「草原」「湖」など自然現象にまつわる言葉。「あたたかい」「熱い」「つるつるした」「ざらざらした」など触感を刺激する言葉などが満遍なく散りばめられていることが望ましい。
この方法の要は、鍵穴となるセンテンスを意識しながら、鍵となる言葉をひとつひとつ意識して呼吸の通る言葉を捜すことである。そうして見つかったキーワードを組み合わせて簡単な一文を作れば、鍵穴となる言葉のニーズを満たすキーセンテンスができあがる。このキーセンテンスをカードに書いて、いつも身につけておくように相手に贈り物として渡すこともできる。
言葉の贈り物
特定の感覚を喚起させたい言葉をどのようにして選ぶか?ただなんとなく思いつきで選んでいたのでは、そうした言葉を見つけることは難しい。われわれの呼吸はそうした言葉をきちんと知っているが、我々は大抵自らの呼吸の呼びかけを無視しつづけている。多忙な日々の中で少しの間、自らの息遣いに沿った言葉を捜してみること。それが私たちの人生にこれまでにない奥行きを与えてくれる。
この方法を実践してみてわかることは、ニーズを満たす言葉は往々にして我々の想像を越えたものであるということである。この方法を通し我々はいかに言葉の息づかいに対して鈍感になっているか、いかに言葉と表面的にしか関わってこなかったかということも明らかになってくる。
自らの息づかい、そしてひとつひとつの言葉の持つ響きに対し感覚を研ぎ澄ますことで、我々は求めているキーセンテンスを手に入れることができる。この方法はたんなる文章技術ではない。人間が生きるという根源に関わるものである。
21世紀の呼吸法
現代のようなスピード優先の時代にたった一文の言葉を見つけるためにそれだけの手間をかける価値があるのかと考える人もいるかもしれない。だが、語り手の息づかいに基づいた言葉は時には人の命を救うこともある。現代のように情報が過剰な時代には、決して情報に還元されることのない息づかいを伴う言葉こそが求められているのだ。通りいっぺんの表現とは根底から異なる語り手の息づかいを運ぶ言葉が・・・。
あらゆる価値が情報として平板化されてしまうような時代にも、生きることにダイレクトに結びつく呼吸と結びついた言葉を紡ぐことのできる人間ならば自らの生を生き切ることが出来る。
語り手の息づかいと深く結びついた言葉は人の意識をも変えていく真の贈り物としての力を持つ。
21世紀の呼吸法は特殊な訓練以前に私たちが日々の生活の中で何気なく用いている言葉との関わりから始まるものなのである。自らの息づかいに沿った言葉を紡ぎだすこと。私たちはまだそのスタートラインに着いたばかりである。
(2006、4月12日)
※5月20日に1日ワークショップ「魔法の言葉の作り方・・・言葉と花の宴」を開催いたします。
参加者全員にそれぞれの目的にフィットした「言葉の贈り物」が渡されます。
http://waraimagic.com/ivent.html