シルクロード夜話

望月 澄江



3 レコーディングと高円寺の夜

先週の土曜日、高円寺の貸しスタジオで自作の曲「カムロギ」のレコーディングをした。
メンバーはジャズヴォーカリストで地元の友人Jちゃんと元ドラマーで作曲からミキシング全般を手がける神戸の友人Y。
今回はYの新曲に入れるヴォーカルの収録の合間を縫って、一年前にアップした「カムロギ」も取り直そうということになったのだ。

Yが機材のセッティングを終えると、Jちゃんのレコーディングが始まった。
ジャズヴォーカルで鍛えたJちゃんのパワフルで伸びのある声が狭いスタジオに響く。
Jちゃんとは家も近所で、よく一緒にカラオケにいったり飲みにいったりするんだけど、そのたびに彼女の歌には素直に感動させられる。

でもこの日は違った。
スタジオの隅で彼女の歌をだまって聴きながら、自分がどうしようもなく打ちのめされていくのを感じた。
負けたと思った。

これまでわたしはあまり自分と他人を比較して考えたことはない。スマップの歌でもあったけど、誰もがオンリーワンなんだから、ひとりひとりが自分の持ち味を生かせばそれでいいと思っているからだ。それは音楽に対してもそうだった。素敵な歌を聴けば感動するし、とても楽しくなる。少なくともこれまではそう思っていたのだ。

でもこの日、はじめて悔しいと思った。今のわたしは、歌うことによって伝えたいことや表現したいことの十分の一も表現できていない。歌はよくも悪くもそのひとのすべてが見えてしまう。だからこそ、なんだか自分のすべてが否定されたような気がして、めっちゃへこんでしまったのだ。
そんな気持ちでいい歌なんて歌えるわけがない。でも自分の気持ちを正直に話す勇気もなくて、結局納得のいかないままレコーディングを終えた。

週明けの月曜日、そんな気持ちを抱えたまま、いつものようにボイストレーニングに行った。
担当のももちゃんに「レコーディングはどうだった?」と聞かれて、かっこ悪いなあと思いつつ正直に自分の気持ちを話した。
するとももちゃんが言った。

「望月さんのなかで、すでに音楽がアイデンティティーの一部になっていたからへこんだんじゃないですか? わたしもそうなんですけど、ヴォーカルって、みんな変なプライドがあるんですよね。だから相手のほうが実力が上だったりするとめっちゃへこむんですよ。その悔しさを通過しないと、その次のステップに進めないと思うんですよ」

目から鱗だった。
いつのまにか自分のなかで、歌がすごく大切なものになっていたことにはじめて気がついた。
以前、へたでもいいいし多少ピッチがズレてもいいから、自分をさらけ出して歌えるヴォーカルって、かっこいいよねという話をももちゃんとしたことがある。
どんな状況であっても、つねに自分の中心からブレることなく自分のペースで歌う。それがどれほどすごいことなのか、自分がその立場になってはじめてわかった。

「技術がうまいヴォーカルはいくらでもいますが、そこだけに気持ちがいってしまうと、聴いているこっちは共感できないんですよね。わたしもうまくなりたくて、先生(注:ヴォーカルスクールのオーナーの先生のこと)にビブラートってどうやるんですかって聞いたことがあるんですよ。そしたら、どうしてうまくなる必要があるの? 楽器としての自分の喉を磨く必要はあるけど、うまい歌を歌う必要はないでしょって言われちゃって、まいったなあ〜と思いましたね」

ああ・・・そうか。
わたしが本当にやりたかったのは、上手な歌を歌うことじゃなくて、自分の歌を歌うことだったんだ。胸の奥から溢れてくる思いを聴いてくれるひとにまっすぐに伝えたかったんだ。それをじゅうぶんに伝えることのできない自分自身の未熟さに腹を立てていたんだ。
そう思ったら、すぅーっと肩の力がぬけた。

わたしはなんて小さなレベルで苦しんでいたんだろう。
本当にいい歌は、そんな悔しさとか対抗意識なんか消し飛ばしてしまうほどの力をもっている。それはたぶん、聴く側の魂が激しく揺さぶられるからなのだろう。
歌い手と聴き手の魂が共鳴する。
その瞬間、表面にこびりついていた小さなプライドや無力感なぞパラパラと剥がれ落ちる。

――そして
世界が生まれる。

わたしもいつかそんな歌が歌えるだろうか?

「スティービーワンダーもマイルスデービスも同じ人間で、同じ喉をもっています。かれらとわたしたちの違いは歌い方だけです。先生の受け売りですけどね」
そう言って、ももちゃんは笑った。

そんなわけで、もういちど「カムロギ」のレコーディングをやり直したいと思った。じつを言うとレコーディングに関して半分捨て鉢な気持ちになっていたのだ。どうせ自分なんか・・・・ってね。でも今は、技術はたいして変わらないかもしれないけれど、心から納得した気持ちで歌いたい。

友人Yに恐る恐るそのことを伝えると、こんな返事が戻ってきた。
「あのとき、緊張してないって言ったの覚えてる?」
「・・・・・」
「じつを言うと、今回のより一年前に入れたやつのほうがいいなあと思っていたんですよ。なんだか今回のやつは自然に歌えてないなあって」

・・・・・気づいていたのか(滝汗)。
知らぬは当人ばかりなり・・・・・か。
                                                2004.12.23




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