シルクロード夜話

望月 澄江

1 イメージングトラベル
          〜砂漠の水流

それは言葉のもつイメージ力について伊藤さんと話しているときだった。私は自分の仕事力を高めるために、この人からコンセプト・メーキングのノウハウを学んでいるのである。
「それじゃあ、望月さんだったら魔法使いがいたら何をお願いします?」
イキナリこういう意表を突く質問をカマシて私たちの固定観念に揺すぶりをかけるのが、この人の得意技である。おかげで固定観念から解放された私のイメージは、自由に広がっていく。

魔法使いね。そういえば最近はあまり魔法使いにお願いしていないなあ(笑)。よし、決めた。

「魔法使いになりたい」
「それじゃあ魔法使いになったとしたら何を具現化しますか?」
ふと思い浮かんだのはほうきに乗って空を飛ぶ自分の姿だった。
「ほうきに乗って空を飛びたい」
「じゃあほうきにのって自由に好きなところに行ってみてください」

わたしはほうきにまたがり真っ黒い魔法使いの衣装を身を包んだ自分を想像した。それはとても楽しくわくわくするイメージ旅行だ。風を切り、ラベンダー色の混じった紺碧の空をどこまでも飛んで行く。耳元で空気を切り裂くゴーという音が聞こえてくる(ような気がする)。
やがて眼下にシュークリームのような形をした青いモスクの屋根が見えてきた。
あたりは見渡す限り白い砂、砂、砂・・・・。
そのまん中にまるでアラビアンナイトに出てくる宮殿のような青い屋根がたくさん見える。
ええと・・・・なんて言ったかな。この青は・・・・。
あっ・・・・・思い出した!

――サマルカンドブルー!

なぜかイメージの中では青い宮殿だかモスクだかのまわりには、背中にきれいな織物をひいたゾウやラクダがいる。それに道化師のような格好をした者や、三弦か琵琶に似た楽器をひいている楽師もいる。そうかと思うと、いつだったかリオのカーニバルで見た華やかな衣装に身を包んだ美女もいる。そしてそのひとりひとりが思い思いの格好で宮殿の外の砂の上にすわり仲良く焚き火を囲んで語らっている。
それはまるで古代のシルクロードの夜がよみがえったような不思議な光景だった。

伊藤さんに話すと、
「それはおもしろいですね。続きが見たいですね。もう少し旅してみましょう」

了解。

「まわりを見渡してみてください。そこにガイドがいませんか」

イメージの中であたりを見回すと、宴の輪からすこし離れたところに賢者のような老人が立っているのが目に入った。
そばに近づくと、老人は砂漠のかなたを指差した。
イメージの中での移動というのはじつに便利なもので、その場所を意識した瞬間すでにその場所に移動しているのだ。
さっそく老人の指差したあたりを掘ると砂の中から古代の棺が現れた。

以前テレビでシルクロードの特集を見たことがある。
シルクロードというのは古代の東アジア・南アジア・西南アジアの文化圏を結ぶ交易路で、沿線のオアシス地帯にはかつては中継貿易で栄えた多くの国々が点在していた。それだけに北方の遊牧騎馬民族や各国のたび重なる侵入によって様々な人間模様が繰り広げられたに違いない。

この棺を見たとき、ふとそれを思い出した。
棺の中には草原の国のお姫様が静かに眠っていた。お姫様の装飾品と思われる首飾り(?)にはめ込まれた青い石がひときわ美しく輝いている。
わたしは棺のさらに奥の地中をのぞいた。
その瞬間、豊かな水脈が地中に息づいているのに気がついた。

水・・・・・!
地中を流れてゆく圧倒的な量の水。
屋久島の杉の木。
透明な水が水しぶきをあげて滝つぼに落ちてゆく。
いくつかのイメージがコマ送りのように浮かぶ。

それは決してとどめることのできない力強い流れそのものだった。
イメージといっても、意識は体感を伴ったリアルさでこの地下水脈の存在をはっきりと感じていた。
砂漠の地中深いところでは脈々と水が流れている。そしてその水はユーラシア大陸を越えてはるか屋久島、そして日本列島にも続いていた。

圧倒的な情報量に根をあげて、わたしはなかば未消化状態で目をあけた。

シルクロード、そして水。
イメージの中に現れたメタファーたちは何を語ろうとしているのだろう?
その答えはこれからゆっくりと姿を現してくれるに違いない。
混沌と秩序が交差するこの現実世界のまん中で。
                                                         2004.11.5

注: 伊藤雄二郎
笑いのシルクロードの主宰者の1人で不思議なユーモア感覚の持ち主。経済学と心理学のバックボーンをベースに独自の視点からコンサルテーションを展開。専門はコンセプト・メーキング。イメージ力を巧みに活用し、固定観念から脱却し新しいコンセプトを展開するのが得意領域。ビジネスに限らず、個人の人生戦略に関しての心強いガイド役。この人のコンサルテーションの主軸は「一人一人が自分の頭を働かせるノウハウを掴むこと」にある。望月は「笑い」を中心に据えたサイトのコンセプトに賛同し、共同でサイトを立ち上げることに合意。




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